わたしアナウンサーになれない
目覚まし時計を嫌な顔をしながら止めて、また二度、三度寝と繰り替えす。そんなことをしているうちに、とっくに家を出る時間まで数分を切ってしまう。急いで毎朝出かけるのがほぼルーティンだった。
スプレー式の日焼け止めと眉毛だけを書いて朝食替わりのプロテインに豆乳を注ぐ。
プロテインのシェイカーを振りながら車に向かってエンジンをかけたタイミングで頭の中に音楽が流れた。
わたしアナウンサーになれない
きみもいろいろしてきたくせに
どうやって息を吸うのが
正解だったか教えて
うわ~~~この曲なんだっけ~~!もやもやしつつも調べる時間はない。急いで家を出ると同時に、信号待ちで歌詞を検索した。
大森靖子のマジックミラーという曲だ。
検索画面にわたしアナウンサーになれないと打ち込むと、スペースを開けて意味と出てきた。
あまり音楽の歌詞については意味を考えないタイプで、この歌詞もいまいち意味を理解せず聞いていた。
たしかに、アナウンサーになれない意味ってなんだろう。
大森靖子さんは、かわいらしくて女の子らしいのに、人間らしくてドロドロした曲を書く。大好きだ。
アナウンサーになれない、理由を考えたとき、少し前にどこかのテレビ局が、アナウンサーの内定を取り消したニュースを思い出した。
アナウンサーになれない理由にルックスや学歴などはあるけど、それ以外もあった。その時の内定取り消しの原因は確か、キャバクラか何かのバイトをしていたのだった。
大学生ってめちゃくちゃ楽しくて、時間に余裕があって、遊んで、勉強して、バイトして、また遊んで。そんな生活が毎日。わたしの大学がFランだったのかもしれないけど、とにかく楽しかった。そのぶん学費なども含め相当なお金がかかった。
東京で、しかも女子アナを目指すようなかわいらしい女の子には相当なお金がかかっている。その女の子をするためにはふつうの家庭にふつうのバイトじゃ足りない
女の子たちがキャバクラや夜の居酒屋など、コスパの良いバイトに手を出すにはそう時間はかからなあと思う(その子がどうかは知らないよ)
また、仲良しグループで一人が手を出すと、紹介に紹介を続けて、あっという間にそのグループの女の子たちは一つのキャバクラで働く仲間になる。
そんな風に軽い気持ちで、ただのバイトの延長線上にいるような形で手を染めたバイトをきっちりと大学時代に辞めて、就職をする子も、そのままズブズブと夜の世界にはまっていく子もいる。
そんな風に軽い気持ちでキャバクラやホステスなどのバイトに手を出したばかりにアナウンサーになれない。かわいくて、教養もあって、女の子の頂点みたいな仕事に就くのは、それだけ後ろ暗いことがないことが前提らしい。
清楚でかわいくて教養があって、控えめで、野球選手と結婚する。そんな女の子のあこがれは、ひとつばかりの後ろ暗さで打ち砕かれる。
君もいろいろしてきたくせにね。